[読書感想文]What Emotions Really Are
@ なんばいきん · Thursday, Sep 22, 2022 · 10 minute read · Update at Sep 22, 2022


感情の研究者として、「What Emotions Really Are」を読んだ。
理解できてないかもしれないので、自分の思考を整理するべく各章のまとめをざっくり書き残しておく。ちなみにあくまで1997年に書かれた書籍なので、証拠となるエビデンスの評価はその点に留意すること(書くまでもないが…)

第一章 イントロダクション。各章の概要を説明してくれているが、いきなりここ読んでもかなりわかりづらい(笑)。ちなみに第二章から第六章まではEmotionの話、第七章から第十章までは自然種の話です。

第二章 哲学と感情の章。具体的には概念分析の問題点が指摘されている。本書では命題態度理論として感情を捉える方向性を詳しく議論している。命題態度理論というのはざっくりいえば、思考や信念を含むものとして感情をみる立場(もしAである信念を持つのであれば、それと対応する感情を持つ)である。それに対する批判としては、以下の通り:①Objectless emotionの指摘 (feel “down”)、②反射・嫌悪学習 (Objectと関係のない連合学習)、③感情でない信念の存在 (タバコは健康に害)、④感情とするには証拠不十分な判断(Aは歌がうまい→嫉妬?無感情?)、⑤空想に対する感情反応 (実存がないから)、⑥生理反応が含まれてない(顔、筋肉、声、自律神経)
また、概念分析は結局Folk Psychologyの産物だから無益やねん。ということを書いていた。本書を通して重要なのは、日常生活で扱う感情(素朴感情、Folk Psychologyによる感情)は科学で扱う感情 (Scientific Psychology による感情) と区別するべき、という主張である。本書は多分最悪これをおぼえておけばいい。

第三章 感情に対する進化心理学的アプローチの章。Darwinの話とそれからEkman (表情認知の普遍性?研究) やPultickやら心理学者の話。発達の観点も含めると、進化論的説明ってのは環境との相互作用でいろいろあるよね。「適応」一辺倒じゃ説明にならんよね、という話題もあった。Serviceable associated habits とかの3原理とか、まぁDarwinの話する章って感じかな。

第四章 感情プログラムの話。ここではEkmanの基本感情理論 (Basic Emotion Theory) でなく、Affect Programsという名称を採用している (そもそもEkmanがAPTだのBETだのいろんな名前や概念を適当に作ったりすることで混乱が生じがち)。科学心理学での感情はFolkのそれと対応する必要がないので、「表情認知も自由記述で回答させたら結果バラバラやんけ!(方法論的問題の指摘)」といった批判は無効らしい。そうなん?
APTの説明は(少なくとも)進化論的学習システム+自動評価システム (いわゆるシステム1) を肯定している点で高評価。この章の結論は、自動評価 (Objectless emotion)と意識的評価の両方があるために、命題態度理論は前者が扱えない、Folkはうんこ、という感じだろうか。

第五章 高次認知感情の話。まずは嫉妬とか甘えとかその辺の認知介在 or 文化特有の感情はどう作られるかの話から。まず基本感情の混合じゃね?というアイディアは、①具体的になにとなによ?②長期的な感情の存在、③行動・生理反応がないのもある、④主要な認知の説明にならん、とかでまずダメ。Damasioの二分類 (primary and secondary emotions: 単純すぎる)、Tooby & Cosmides (1990: Emotionは状況の知覚Cue統合プロセス←学習込みの進化プロセスを捉えきれてないが高次認知は説明可能) を紹介・批判して、「概念は伝統的”生物学的”なものと”文化的”なものと分けきれんもので作られてそうだし、感情を考えるうえで環境は重要そうやねぇ」という結論に。せやね。

第六章 感情の社会構成主義の話。構成主義の考え方には、social conceptとsocial roleの二つのモデルがあるよ。前者はちょっと命題的態度理論と文化の融合体 (適当)、後者はOutputに関心があり、自動反応 (ゆえにAPT、環境との相互作用を前提に置く) を扱うのをEnforcement ver、意図的な行動 (ゆえに本質的にはPretense) を扱うのをDisclaimed action verと名づけてる。後者が独特な出力を扱える概念として掘り下げられている。社会構成主義も重要な立場だけど、それによって「biological」な部分を除外すると、①Innateの概念による混乱、②Generalなカテゴリーを探す気がないことになる、的な感じで着地してる。特に構成主義に対する不満としては、②が個人的にも(構成主義に対して)気になってるところ (Folkの記述を目指すならそれはそれでいいと思うし、多くの感情心理学者はそうならざるを得ない気もする)。

第七章 こっからは自然種の話。自然種って大事だよね。だって、「サンプルからカテゴリーへの外挿ができる」し、「性質の大部分において非常に信頼性の高い予測をできる」もんね (正確には後者はそうであることが理想)。まずはいったん、ありがちな古典的概念理論における、必要十分条件の記述不可能性 (概念の流動性・理論内の同一性担保困難) について議論したうえで、因果的な関係性を持つ充分な特徴を特定できればいいよね、という方向に (多分)。おそらくクリプキの理論に関する知識が必要(ぼくにはない)。特徴っていろいろあるけどその重みは違うよね、それはFolkのレベルじゃなくて、科学である以上その分野で有用な構造に依拠したほうがいいんじゃない?って感じの話。

第八章 生物学と心理学の自然種について。homoplastic (並行進化) とhomologous (common origin) を区別可能な概念が求められる。Ecologicalな記述 (機能に基づく分類など) だけでは、それを実現できない。221ページでは、Marrの心理に対する3レベルを生物学のそれと対応させている。心理学ではほとんどEcological level (Marr のTaskレベル?) しか扱えていないのが問題だ、という指摘。基本的に筆者は、biologicalな説明とculturalな説明のイイ感じの融合を目指していて、その説明としてAffect Programが割と適していると考えていたんだと思う。それでいて、biologicalな説明は例えば分類学、culturalな説明は史学みたいなものを感情の心理学でも真剣に扱うべきだ、みたいな。

第九章 さぁタイトル「感情とはなんやねん」だ。ここまであーだこーだいろいろ展開した議論 (詳しくは本書参照) から、「まぁまともに科学心理学として使えそうなのは、Affect Programの (あるいはadaptive-historicalな発想に基づく) 基本感情だよね」という結論へ。Affect programにおける基本感情は、測定可能な生理変化・ステレオタイプ的表情・行動傾向を備えた、短期・協調・自動反応の生物学的基盤に基づいた汎文化的セットであるゆえにまぁ大丈夫でしょう、という感じ。カテゴリーとして他にありうるのは、高次認知感情、Disclaimed action version のSocial role model(ここは筆者も自信なさそうだし、実際に後で撤回する)、という感じ。

第十章 おまけ (多分笑)。気分はどうなの?→階層的な機能 (not emotion) に基づく構造を想定して、神経関連と紐づけたら気分システムについての探求がイイ感じになりそう。



まとめると、多分2点 (ほんまか?)。日常生活で扱う感情(素朴感情、Folk Psychologyによる感情)は科学で扱う感情 (Scientific Psychology による感情) と区別するべき、という主張が一つ。もう一つはそれを踏まえた今後の方向性。科学的な感情の概念として、感情プログラム、高次認知感情、社会的に構成された作為、なんかが自然種として有用なのではないか、ということを提案している。2006年段階では、Scarantinoと共にこの高次認知 (そして社会的に構成された作為:Disclaimed action ver of social role model) はやっぱ厳しいかも…と意見を撤回している (ATRの太田さんにご紹介いただいたブログ記事)。

Scarantinoでよりその傾向が顕著だが、Griffithsは感情を説明する理論が複数存在するということ (多元主義?) にはかなりオープンだと思う。目的に適した切り分け (自然種だと外挿可能なプロパティの同定とかになるのかな?) が科学を進展させる、という考えをおそらく持っていて、仮にそうなら僕もそれには同意するところである。戸田山先生の原稿もそういう着地だった気がするし。それはともかく、Barrettの勉強をそろそろちゃんとします。ではでは。


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