ステレオタイプの科学
ステレオタイプについて、学部生のときに講義で習って以来(9-10年前?)あまり知識を更新していなかったので、『ステレオタイプの科学――「社会の刷り込み」は成果にどう影響し、わたしたちは何ができるのか』で再入門することにした。
「ステレオタイプ」とは、あるカテゴリーの人に対する固定観念である。
身近な例でいえば、「男性は共感的でなく、女性は数学が得意でない」とかそういう系統のものだ。その「イメージ」に基づいて他者にネガティブな感情や行動をとるのはよくない。わかっていても改めて強調しておく必要がある程度に、我々の社会にはこの「ステレオタイプ」(とそれによって生じるネガティブな事象)が蔓延している。
※ステレオタイプ脅威の実験に関しては再現性の問題が近年では指摘されているので注意:2021年6月追記
ステレオタイプ脅威
この本の画期的な点(というか「あっ、そっちの話なんだ」と思った点)は、他者が相手に対して抱くステレオタイプについて焦点を当てているのではなく、自分自身が社会を通して自身のステレオタイプに注意を向けることで何が起きるのか、という点に焦点を当てている点である。
例えば、『運動神経を測定する』と教示されたゴルフでは黒人が白人の成績を上回るのに対し、『スポーツインテリジェンスを測定する』と教示されたゴルフでは白人が黒人の成績を上回る。どちらも同じゴルフタスクに関わらず、である。
この差は本来のパフォーマンスが『運動神経のない白人』『頭の悪い黒人』という自身が抱えるステレオタイプに対して、それらをあてはめられる見通しだけで自己防衛的な反応が自動的に喚起され、その人の実際の能力を奪ってしまうのである。
この現象はステレオタイプ脅威と呼ばれ、本書ではこのステレオタイプ脅威についての科学的検証を懇切丁寧に紹介する力作である。
ステレオタイプ脅威を縮小する具体的な筋道
本書を通してステレオタイプ脅威についての理解を深めると、集団間の格差に関する理解はより一段と豊かになる。さらに本書は『こういう現象がある。悲しいね。ちゃんちゃん。』では終わらず、ステレオタイプ脅威を引き下げるための仕組みの一部を紹介してくれている。
フレームワークの再構築、ステレオタイプを打破できる構成員の集団内における十分な存在、多様な人間との相互作用、成功を期待するナラティブ構築のサポート、などどんな場面でもステレオタイプ脅威を抑える万能薬があるわけではないが、対処するためのヒントは随所に散らばっている。そうした希望をデータという根拠に基づいて提供してくれているのは本書の大きな強みである。
出版社の提供するコンテンツ
英治出版が提供する、特別連載:「ステレオタイプから、自由になる」を読めば、この本をより楽しむことができる。
このメディアでは身近なステレオタイプに対して多様な視点から考えるヒントとしての記事が3つ連載されている。
一つ目の東洋大学の北村先生による記事は『ステレオタイプの科学』に掲載されている内容を丸々載せてくれている。「読んでみようかな」、という人はまずこの記事からチェックしてみてもいいかもしれない。
残り二つは元陸上選手の為末さんと東京大学の四本先生の記事もぜひご一読いただきたい。日常に潜む様々なステレオタイプを意識するきっかけや、そこを乗り越えるためのヒントがいっぱい載っている。本を読み終わった後もこんなに楽しませていただけて感謝感謝である。