[読書感想文]グライス 理性の哲学
@ なんばいきん · Saturday, May 28, 2022 · 7 minute read · Update at May 28, 2022


やっと論文執筆とかもろもろ終わったので楽しみにしてた「グライス 理性の哲学: コミュニケーションから形而上学まで」を読んだ。
これ書いた人の前提知識: 最近語用論に興味を持っている心理学徒。グライスは論理と会話だけ目を通したが咀嚼はほぼしてないしできなかった。

第一章 グライスへの愛があふれている。ここまで一人の研究者について詳しく語れるのはすごいなぁ、と思い素直に感心した。明らかにこの章だけで「この人の描くグライスならきっと間違いない…!」という謎の信頼を感じることのできる章。あと妖精のくだり、意味わかんなかったけど茶目っ気だったのね。

第二章 オースティンを代表とした日常言語学派に対するグライスの独特な立ち位置が紹介されてる。日常言語を採集する方法論ってなんかかっこよい。

第三章 会話的推意の修正定義、めちゃ助かった。難解なグライスの文章を例も含めながら紐解いてくれて全人類が多分助かるし捗る章でした。

第四章 一種のミステリー的な感じで会話的推意の理論を読み解いている。語用論の入門書などで雑に理解した自分のような人間が抱きがちな会話的推意の内容的解釈を紹介し、言うこと(言うフリ)のパースペクティブを広げてグライスがその理論で意図していた(だろう)解釈を提示している。ミステリー小説を読んでるようにページをめくっていった。この章から(ここまでもとても面白いのは当然なんですが)あまりに面白すぎてたしか全ての業務を置き去りにして一日で読み切った。

第五章 意味するについての議論を紹介。三節以降は三木さんのアイディアである公共性という概念を導入してグライスの意味についての分析をより透明性の高いものにしている。

第六章 意図を意思と信念に分解して彼の抱く心理概念を解説する。心理学者にとって、その論理的な定義と分析は注目に値すると思ったのでぼくのように何も考えずに実験とか観察とかしてる心理学者諸氏はこの本を読むことをすすめる。多分大事なのは210p4-5行目および素朴心理学が非明示的定義を与える公理系をなす、という点。こーの心理観と意味の分析を接続するくだりがもーう、たーまんねぇんだー!

第七章 こっからはほんまに知らないグライスの話。言語哲学としてのグライスでなく、理性の哲学者であることを指摘する(本書のタイトルにかかわるかっこいい)章。

第八章 ついにあらわれた哲学的終末論。Twitterでその文字を目にした時には「そうか、なんか終わるのか」と思った。 創造主としての一種のシミュレーションに似た方法論を通して価値を議論していく。ここでの結論は、いろいろと読んだ人によって感想が出てきそうだが、そうしたグライスが描いた思考を提起しているのは、(詳しくないけど)本当に先駆的で刺激的な内容なんだと思う。

あとがき 筆者の気持ちが出てくる読み応えのある後書き。理性の共有に対する不満もとてもおもしろい。7,8章を読んでる時に抱いた違和感がこのうえなく明瞭に示されていて「わぁすごいなぁ」っておもった(KONAMI
ぼくの場合は自身の経験からうまく意図通りの伝達ができない人を断じるような危うさがあるなぁ的な漠然とした印象でしたが、たしかに共同体の観点で説明するとその問題点が明確になってて「はえー」ってなった(明確でない感想)

この本、第四章から仕事そっちのけで一気読みしちゃったんですが、それもこの本がそして三木さんを通したグライスの哲学が楽しいものであったからこそでした。いやぁいい本だった。

この日記じゃ多分何言ってるか全然わからんと思うけどコミュニケーションに関心がある人は絶対楽しめるのでぜひ。
最近はウィトゲンシュタインだのブランダムだの、個々の哲学者をフューチャーした和書がいろいろあって門外漢が学ぶにはとてもいい時代になっているなぁと感じた。クワインも誰かはよ。

心理学者もエクマンにめちゃくちゃ詳しい本とかだれか書いてくれよ。


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